fragment no.1

深夜3時頃、決まって眠気覚ましにコンビニへコーヒーを買いに行く。自宅で働いている僕は無性に外へ出たくなる衝動から、気分転換がてらコンビニへ行くような生活を送っている。着くと財布にお金が入っていない事に気が付いて店内のATMへ足を向けた。するとATMの真下で、酔っているのかぐっすりと眠る中年の男性がいる。少し小太りで、中年が着るごく一般的な服装。ホームレスではなさそうだ。ものすごく邪魔な場所に居るが僕は構わずその男性をまたぐような態勢でATMにカードを差し込んだ。「今ここでチンコを刃物で刺されたらどうしよう」などとしょうもない想像をしてしまい、股間を握りながらお金を下ろす。「すみませーん、ホットコーヒー Lでー。」適当に声をかけると、深夜勤務でテンションの低いアルバイト店員が品出ししていたパンコーナーからレジに駆け寄った。「ATMんとこで人寝てるよ。大丈夫?」「えっ?マジっすか?」店員は気付いていなかったらしい。すると同時に、レジ奥からこれまた小太りの中年店長が現れて「あっ、分かりましたすみませぇ〜ん。」と腰を低く言いながら眠っている男性の方へ駆け寄った。僕はコーヒーを片手に出口へ向かう。「お客さぁ〜ん、申し訳ないけど起きてぇ〜。寝ちゃったあ〜?寝ちゃったのぉ〜?」優しく声をかける店長。「…うん……寝ちゃった…。」甘えるような声で寝ていた男性がそう返した。僕はこの会話を背中で聞きながら店を後にした。人気の無い寒い夜道を歩きながら、僕の頭の中でこの会話がぐるぐると回り始める。いろんな複雑な感情が湧いてきたが、7割はこの中年男性2人に対する「尊さ」だと分かった。何てことのない、ありきたりな場面。

 

fragment no.1