fragment no.5

地下へ誘導される。照明が等間隔に奥まで連なり、木製枠で囲まれた狭く薄暗い地下は、ホコリとセメントの匂いと労働者でごった返していた。現場監督のかけ声とともに頭上から機械音が聞こえ、やがて木製枠の向こう側を轟音とともにコンクリートが流れ落ちてきた。皆一斉に木槌で木製枠を叩き始める。僕も必死に叩き始めた。どこから漏れているのか、気付けば体中が飛び散ったコンクリートだらけになっている。「お前タッパあるから上の方叩け!」と先輩に怒鳴られ、僕は手を伸ばし必死に上の方を叩いた。轟音の中、何分経ったのかまったく時間感覚のないまま音が止んだ。疲労で腕が上がらない。思わず手首を振って筋肉をほぐすやいなや、現場監督の2度目の合図で再び轟音が僕らを包み込んだ。表参道の246沿いにある建設中の某ビル。その基礎工事現場に日雇いで来た僕は、流されてくるコンクリートに気泡やムラ、隙間ができないよう木槌で木製枠を必死に叩いていた。場所を変えては50箇所ぐらいを永遠に叩き続ける。何百回、いや、何千回叩いているはずだ。ふと隣りを見ると、皆、顔や体をネズミ色にしながら必死で叩いている。地上とはあまりにもかけ離れた轟音に包まれる暗い世界。そこはまるで戦場に来たような気分にさせられた。地上に出ると眩しく、空気のおいしさを実感した。皆たばこに火を着け出す。ゾンビのような顔で先輩が僕に「バリバリだな顔」と笑みを浮かべた。そのビルは表参道のど真ん中に建っている。今でもそこを通るたびに、見えない地面の下にその光景を見るのだ。